はじめに
2025年にAIエージェント元年と呼ばれる一年を経て、私たちは2026年にソフトウェア開発の大きな岐路にいます。
従来エンジニアがしていた仕事をそのままやっている人はほとんどいなくなり、みんながAIを使って開発を進めています。
その中でも一部の人は開発の大部分をAIに任せて自動化しつつ、品質を保ってうまく本番までデリバリーし始めました。
私たちは2026年にソフトウェアファクトリーを作る側になろうとしています。
ソフトウェアファクトリーとは
2026年6月末にサンフランシスコで開催されたAI Engineer World’s FairでSoftware Factoriesという独立トラックが設けられ、複数日にわたってSoftware Factoryをテーマとしたセッションが組まれている。
単語自体は時代によって何度も登場した単語のようで、ChatGPTの調査によると下記のような感じらしい。
| 時代 | Software Factoryの中心思想 |
|---|---|
| 1960年代 | 開発環境・ツール・工程の標準化 |
| 1970〜80年代 | 大規模組織での品質管理・再利用・工程管理 |
| 1990年代 | 日本型ソフトウェア生産方式への研究 |
| 2000年代 | DSL / Model Driven Development / Software Product Line |
| 2010〜20年代 | DevOps / CI/CD / Internal Developer Platform |
| 2025〜26年 | AI Agentによる工程そのものの自動実行 |
人類は何度もいわゆるソフトウェアの工場を作ろうとしてきたが、今回の再燃ではこれまで工場の作業員を人間が担当していたのに対し、生成AIの登場で初めて機械化が可能になったことが最も大きな違いだ。
つまり、現在言うソフトウェアファクトリーは以下のようなもので、これは今年の頭に私が思い描いていた目標そのものだった。
AIにコードを書かせること、だけでなく、要求・課題の入力から計画、検証、レビュー、デプロイ、監視、改善までを、標準化された工程として連続的に回すソフトウェア生産システム
ちなみにフォードのような組み立てラインというよりはトヨタ方式の自働化、工程内品質、改善などの要素がかなり近い。
流石にもうAIをツールと呼ぶ人は少なくなってきたと思う。
AIはツールを超え、人間をすでに超えており、エンジニアの中央値くらいの人間は十分置き換えられる性能を持ってしまった。ツールを超えて労働の主体となった。
つまりエンジニアの仕事はもはやコードを書くことではなく、むしろコードを書かないという制約すら用意した方が良くなってしまった。Agentが仕事できる環境やフィードバックの仕組みそのものを構築すること、Agentに渡す前段の要求、課題の設定をすることが仕事の中心になった。これがソフトウェアファクトリーの再燃の実態だと思う。
2026年8月27日にはUberが Uber規模でソフトウェアファクトリーを効率的に運営する を公開した。70%以上のPull RequestがローカルまたはクラウドAgentに関連しており、3600以上のAgent Skillが存在し、1日30000回以上実行されているらしい。
工場の比喩について考えてみる
AIが労働主体である以上、工場のように「プログラマが工場労働者として働く」という意味だと不適切だと思う。ただ、「生産システムの設計」という観点だと向上の生産管理と似ている点が多くあると思う。特にトヨタ方式との類似点が多い。
| 製造業 | AI Software Factory |
|---|---|
| 注文 | Issue / Feature Request / Incident |
| 設計図 | Spec / Architecture / ADR |
| 工作機械・Robot | Coding Agent |
| 治具 | Harness / Dev Environment |
| 工具 | CLI / MCP / Skills |
| 作業標準 | AGENTS.md / Rules / Playbook |
| 工程 | Agent Workflow |
| 生産ライン | Orchestrator |
| ポカヨケ | Static Analysis / Policy |
| 品質検査 | Tests / Evals |
| 自働化 | Agent + automatic validation |
| トレーサビリティ | Git / PR / Agent Trace |
| 工程設計 | Platform / AI DevEx |
| カイゼン | Failure Analysis → Skill/Eval改善 |
特にトヨタ方式の自働化では、異常を検知したら機械自身が停止し、人間は異常時だけ対応する、という人偏のついた「自働化」を重視しており、これはAI Agent時代の Human On the Loop に近いと思う。
100のAgentを走らせて100のPRを人間が全部読むのであればそれはAutomationではなく、ただ人間が機械の番人役をしているだけにすぎず、そんな時代はすぐに終わるだろう。正常系は機会が処理し、異常系だけを人間が処理する、ここまでできてソフトウェアファクトリーと呼べるようになると思う。
品質と人間
残念ながらソフトウェアには物理的な制約がないため、複雑性や可変性、可視性などの点で本質的に困難な部分が残ってしまう。特に、自動車のように部品を大量に用意して同じように繰り返せば量産、規模の拡大ができるといったものではない。この点はいわゆるライン工場とは大きく異なっている。
ソフトウェアはそもそもコピーにかかるコストは0に近く、原価が抑えられるのでIT技術はここまで急速な普及、拡大をしてきた。その点を見るとソフトウェアの量産というのは設計そのものの量産と言える。よく言われるのはソフトウェアにおける製造工程はコンパイルであり、コーディングは製造ではなく設計、ということだ。
つまり、これまでの時代では成し得なかった設計作業の生産ラインが生成AI Agentによって成立し始めた、ということになる。これまでFactoryの外側にあった人間だけが行っていた知的作業の一部がFactory内部へ入り始め、その品質によって大多数のエンジニアはこれまで通りの仕事をしていては職を失うことになる。
ただ、ソフトウェアファクトリーの運用には物理的な工場以上に品質の管理、検証が重要になると考えている。ソフトウェアには物理的な制約がないため、複雑性や可変性、可視性などの点で本質的に困難な部分が残ってしまうといったが、その点でソフトウェアファクトリーだけでは抑えきれない部分がある。
Testsが通ることと良いSoftwareであることにはギャップがある。期待値を満たす実装をしていたとしても、次回の変更においてバグを生みづらい構造というのは存在し、Softwareにおいて良いものと悪いものの差は物理的な制約がない分より大きなものになってしまう。少なくとも2026年時点では意図、アーキテクチャ、リスク管理はまだ人間の担当範囲にあり、それ以外の計画、コーディング、テスト、レビュー、セキュリティ、デプロイー、運用の部分をどううまくFactoryにしていくか、が課題になってくる。また、想定外の例外処理は人間が担当することになり、いわば Human On the Loop Factory ということになる。
ちなみに単にAgentを増やして10体のエージェントで作業するのがSoftware Factoryではない。これは単なるSwarmで、スクラム的な考え方。
Inputに対して標準的なプロセスを用意しておき、実行、検証を経てフィードバックまでをループするような仕組みまで作ってようやくSoftware Factoryと呼べるようになると思っている。Agentの増員ではなく、生産設備を作ることがFactory化と言える。
現在考えているSoftware Factoryの形
実務上は、次の状態まで到達していればSoftware Factoryと呼んでよいだろう。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| Standardized Input | Issue / Spec / Incidentなど仕事の入口が構造化されている |
| Prepared Environment | Agentが即座にBuild/Testできる |
| Standard Tooling | CLI / MCP / Skillsが共通化されている |
| Machine-verifiable Quality | Test / Eval / Policyによって良否を判定できる |
| Observable Process | Agentの行動・Cost・結果を追跡できる |
| Feedback Loop | Failureが次のRule / Skill / Eval改善につながる |
このうち最も重要なのは最後の二つである。
単にCodexやClaude Codeを全社員に配ってもSoftware Factoryにはならない。
これから先消える役割
AI時代のエンジニアは「工員」になるのか。むしろ逆である。 Factory化によって減っていくのは、
コードを書く ↓ テストを書く ↓ Lintを直す ↓ CIを見る ↓ 単純なレビューをする
といった直接作業である。
人間側は、
- 何を作るべきか
- どの工程を自動化できるか
- 品質をどう測るか
- どんな異常なら止めるか
- Agentにどこまで権限を与えるか
- 失敗からどうFactoryを改善するか
を設計する。
製造業でいえば、
ライン工になるというよりProduction Engineer / Manufacturing Engineer側へ移る
と考えた方が近い。
OpenAI自身もAgent-firstな開発で、人間の仕事がCode WritingからEnvironment・Intent・Feedback Loopの設計へ移ると説明している。
これから直近エンジニアは働き方の大きな変革に対応せねばならず、能力的にも求められるものが変わってくる。
例えば人員を半分にするが、AIコストは払うので成果は2倍だせ、のような要求を受けることになると思う。製造業が産業革命によって大きく変化したように、職業としてのエンジニアは形を変え、工場を作る側に回ることになり、人員は減るか、より大きな規模への対応を求められるようになる。
エンジニアとしてやるべきことは製造するもの自体の知識はもちろんのこと、品質に関する知識、Agentに対する知識、また要求そのものの解像度を上げ、適切なInputをFactoryに渡せるように事業理解をしていくことだと思う。
